閑静な住宅地の一角に佇むその家は、ごくごく普通の屋敷だった。
田舎ならではな100坪ほどの敷地に、コンパクトカーが二台停められた車庫、ガーデニングというよりは家庭菜園を兼ねたような小さな庭。
玄関先には真っ赤な三輪車と同色の補助輪付自転車が置かれ、いつでも乗って遊べる状態で出番を待っている。
しかしまだ寒いとはいえ、春を迎えた日だまりの下で、不自然に窓は全て閉められ物干し竿も空のまま。
少し前まで幸せの象徴であったろう庭は、突然手入れを止められてしまったかのようだ。
今朝方降った春雪の隙間から、かろうじて福寿草が顔を出していた。
最大の違和感は家の前にパトカーが鎮座していることで、このうららかな昼下がりには似合わない雰囲気を醸し出している。
家の中では、スーツを着込んだ男性二人が長ソファーに浅く腰掛け、項垂れながら前に座る男女に向き合っていた。
女性はまだ若く、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらもなお美しい顔立ちをしていた。
眉をひそめて沈痛な面持ちをした男は、泣きじゃくる女を抱きかかえながら、拳をわなわなと震わせていた。