おねえさん。
さほど慌てるそぶりもなく、
さっそうと車のドアを開けて
ゆっくりと下りた。
ものすごく普通、
自然体な振る舞いです。
そしてまず
バンパー方面に歩み寄り
車の破損状況を確認すると、
いきなりバイクの男に向かって
機関銃のように怒鳴り始めました。
どうやら
車を傷つけられたことに
かなり怒っているようです。
バイクの男はちょっと足を怪我した模様です。
痛そうに足を揉んでいます。
少しは気にかけるかなと思いつつ、
そんなことは知るかボケ的な感覚で、
鋭い目つきをバイクの男に向けたかと思うと、
「車をどうしてくれんだい。にいちゃん。バンパー壊れちまったじゃないか」
「足が痛い。足が痛い」
「それがどうしたって言うんだい。てめえの足なんかしるか。何だおまえ。右から走って来やがって。どこ走ってんだよてめえ」
バイクの男も
車が急に出てきたんで
止まれるわけないだろうとか
小声で脅えるように言っているような気がします。
「バカ言うんじゃないよ。てめえ!調子こいてんじゃねえ!右から突っ込んできたてめえが悪いに決まってんだろう!あっ、車だよ。どうすんだい。凹んでんだよ。てめえ。どう落とし前つける気だ!」
倒れたバイクの男は
足を痛そうにただ聞いているだけです。
おねえさんも
どうしたのとか大丈夫ですか?
とか一切なしだ。
バイクの男は悲しい目で足が痛いと訴えていますが、
「てめえの足なんかしるか、ボケ。さっさと消えうせろ。カスが。どけって言ってんだよ、聞こえねえのか。じゃまなんだよ。そこに居られたんじゃ」
そこまで言われても返す言葉もないのか、
男はどうにかバイクを起こし
痛そうな足を引きずりどかしはじめた。
おねえさん。
バンパーが気になるが、
言いたい事を言ったので、
ガン飛ばしながら車に戻り
何事も無かったかのようにバイクの男を
その場に残して置き去りかまそうとしています。
これってアリか?
なんてなことを考えます。
バイクの男は足が痛そうで、
動かずずっと座り込んでいます。
この事故。
どっちが悪いんでしょうね。
まあ逆走したバイクが悪いんでしょうけど。
でもケガしちゃってるしなあ。
おねえさん。
壊れたウインカーランプの破片を
足で払いながら運転席に戻り
エンジンをスタートさせブツブツと独り言です。
「あいつ、右から突っ込んできて車にドカーンだってよ。嫌だよ。まったく。ついてないね。おかげで、ウインカーランプもおしゃかだよ。ふざけた野郎だよ、まったく。チェ」
恐ろしいです。
舌打ちまでしています。
後部座席で座っている私は
どうすればいいんでしょう。
そうだよね
あいつが悪いんだよね。
死んでたってあいつのせいだよ。
なんて相槌でも打ってりゃいいんでしょうかね。
でもね、
一応私は客ですけど。
そんなことも関係ありません。
自分のスタイルで仕事しちゃってます。
慌てることもなく平然と車から降り、
人間ではなく
車を気にし相手に連打で打撃を与えたおねえさん。
強烈でした。
中国女性恐るべし。
かっこいいおねえさん、
と言えるかどうかは別にして、
その一挙一動がかっこよく見えました。
足は長いしスタイルもいいから歩く姿もかっこいい。
私は小さくなったバイクの男を後部座席から恐る恐る見た。
バイクの男はこちらに視線を向けポカンとしたまま
まだ座っていた。