清瀬は、ただ立ち尽くし…佳菜子に対して声を掛けるどころか、
振り返ることすらしなかった。


それは、思い悩んでいるようにも見え…


そうもしているうちに、二人の距離は、どんどん離れていく。


佳菜子もどうするつもりでいるのだろうか?


あても無いまま歩いているので、その足取りは覚束ず…ただなんとなくバス通りを行く。


そんな佳菜子を、電話の着信音が引き止めた。


もちろん、ソレは清瀬からのモノで…

「…もしもし。」

「ごめん。」

「…」

「こんな時にこんなコト言うのもどーかと思うんだけど…なにか、きっかけにでもなればと…」

「なによ?」

「俺、ガキの頃からおまえのことを見てきたじゃん。だから、心配性のおばさんの前で強がって笑ってたことも、おじさんが俺に熱心な空手指導するのを見て、自分が女に生まれたことを悔しがってた様子も、バスケのレギュラーになれるよう必死に練習してたことも全部知ってる。」

「?」

「ソレを見て“俺も頑張ろう”って…言わば俺にとって、おまえは元気の源だった。」

(かーくん…)

「だから、落ち込まれると困るんだよ!いーか、強気で頑張るのと意地張って我慢するのは違うぞ!」

「!」

「なに恐がってんだ?今までだってソノ気の強さで色んなコト乗り越えてきたじゃんか!大丈夫だよ!自信持って、自分の思うようにヤレよ!周りのコトなんか気にすんな!もしソレで失敗するようなことがあったら、その時は…」

「…」