「ねぇ、もっとシート倒せば?」

後部座席で佳菜子が言い、

「ん。わりい。」

遠慮がちに下げる片桐を見て、

「寝顔が見たいってさ。もっと下げてやれよ。」

清瀬らしい、ぶっきら棒なフォローが炸裂。


おかげで片桐は、シートを倒し切って眠ることができた。



「そーゆー清瀬も寝ておけば?」

「もち、そーするつもりだけど…おまえは?」

「朝焼けが綺麗そーだから、もう少し起きてる。」

「お気楽だなぁ。」

「見張っててあげるって言ってんの!」

「そーですか!じゃあ俺も寝る。シート倒すぞ。」

「ん。」


なんだかんだと言っていたが、
実のところ、佳菜子は、
今日という長い一日を振り返り、あまりにも興奮して、なかなか寝付けづにいたのだ。


そのうち、ふたりの寝息が聞こえてきて…


運転席を覗き込んでは、数時間前にも見た、片桐の寝顔に癒されながら、ロマンチックに浸る佳菜子。


ふと、その反対側を見ると、
隠しているのか、朝日を避けてるのか知らないが、
顔にキャップ帽を乗せ寝ている清瀬に顔を近付け、

入念に睡眠状態を確認した後…


「チュッ」

片桐の頬にキスをした。


雄大な景色に魅せられ、
佳菜子は、ほんの少し、大胆になれたようだった。