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僕は彼女を近くのベンチに座らせ、自販機で購入したペットボトルのお茶を差し出した。


彼女は初めて見た飲み物を見るように、手の中のペットボトルを見つめている。
そのまま微動だにしなくなった様子を見て、苛々してきた。
とろい女だな。



「飲めば」



僕が促して初めて、彼女が僅かに動いた。
僕らの間には相変わらず微妙な空気が漂っている。
彼女は漬物石のようにだんまりを決めこんでいるし、この状況を打破する生き物はこの場に僕しか存在していないようだ。



僕は小さくため息をついたついでに、隣の漬物石に問い掛ける。




「死のうとしてたの?」



数秒の沈黙を経て、彼女が重そうに頭を小さく下げる。




「どうして」




僕は明らかに侮蔑の意を込めて投げかけた。

人の羨むものを全て持っているように思える、脆弱で臆病な女にいらついた。

死にたくなるほどの絶望が、おまえにわかるのか?