明日、高篠先生と一緒に笑って恋が始まる。


鬱陶しいな、
と思う。

でも昼間の生徒たちと同様、それは決して口にすることはない。

相手に合わせて会話を続ける。



ひとつため息をついて言った。


「明日の授業の用意をしなければならいから…
切るよ?」












なのに。







…雨霧 葵。

彼女が俺の前に現れてから
静かだったはずのこころの水面に小石を投げ入れられたような…。


広がる水面の輪はだんだんと大きくなってゆく…
そんな予感がした。


彼女はおそらく俺の本当の部分を知っている。

だから近づいてはこない。


これ以上近づいてこられてもっと自分のことを知られるのは困る。


いや…違う。

怖いんだ。



怖い?

そう、軽蔑されるのが。


なぜ?


俺は自分のことが嫌いだ。

自分が嫌いなのだから他人が俺のことをどう思おうが構わない。



そう、

人にどう思われようと…

平気なのはずなのに…。





自分で自分がわからなくなる。










---from 葵---

「ねぇ、なんの本見てんの?」

結衣が朝、
アタシに話しかける。

「うん…
ちょっとバイトでも始めようかなと思って」


顔を上げて結衣を見ることもなく
アタシは持っていた本のページをめくる。


「バイト?
でも叔母さんから止められてるんじゃないの?」


そう、
アタシは叔母さん夫婦に
少しでも金銭的に負担を
かけてもらいたくないから引き取ってもらったときバイトをしたいって
言ったことがあった。


でも

「そんなことしないで甘えてちょうだい」

って言われてそれ以来バイトの話はしたことがない。


でも今回はそういうわけにはいかない。

先生の本を弁償しなくては…。


だからバイトすることは誰にも内緒。


結衣の質問には答えずため息つきながらほかの事を言う。


「んー…
やっぱいい条件のところってないねぇ」



「だーかーらー
なんでバイトすんの?
って聞いてるでしょ?」

結衣はどうしても理由を知りたいのか執拗に聞いてくる。


先生の本を弁償するため…
なんとなく言えなかった。


「うん、そのうちね。
今だってまだ仕事も決まってないしさ」

アタシは笑って誤魔化す。


「ま、いいけど。
絶対に教えてよ?
アタシたちの間で隠し事なんかなしだからね」


「うん」


早くどこでもいいから
バイトを始めて本を弁償して先生と関わるのを止めよう。

嫌われてるってわかってる人と関わっていたって…。



「あ、そうだ。
バイト…、ホラ、アイツ、
木村の親戚が学校の近くの本屋を営業しててさ。
棚卸しの時期だけの短期で仕事してくれるコ探してるって言ってたなあ」

結衣は机でうつぶして寝ている木村くんを指差した。

「ホント?」

「うん、
アタシ声かけられたんだけど曜日が合わなくて…
葵、その気あるなら聞いてみたら?」

「ありがと、そうする」


よかった。
これでどうにか仕事できるかもしれない。



でも。

ひとつ問題が解決しそうだと思ったらまた次の問題が出てきた。

2時間目の休み時間、
同じ班の林田さんがアタシに話しかけてきた。

「え?アタシ?」

アタシは驚いて聞き返す。

「だってアタシ、
こないだ準備当番やったじゃん…!」

アタシは彼女に訴えるように言う。

先生と2人なんて最初のときよりももっと嫌だ。


「ごめん、どうしても…
今度代わるから。
昼休み彼氏から電話かかってくることになってて…」

「そんなの今度にすれば・・・」

ホント、そんなのどうでもいいのに。


電話なんか時間ずらすとかしていつでもできるはずなのに。

「だって…
もう2日も会ってないんだもん」


「なんなの、2日くらい」


アタシはこないだの先生と
険悪状態になってることを思い出しながら絶対に先生と2人きりにはなりたくない…、
そう思って必死になって彼女に訴えた。


でも押し付けるようにアタシにお願いだからって言う彼女に
結局根負けしてしまった。


引き受けてしまったものの…

どうしよう…。