そんな中、
しばらくして白衣姿の先生が見えた。
でも雨のせいで表情がわからない。
ゆっくりと先生はアタシの側へとやってくる。
いろんなことが頭をよぎるけれど冷静を意識するようにした。
でも、
そのつもりでも先生の顔を見た時、
やっぱり…怖い!
聞きたくない。
途端にアタシは冷静じゃなくなって…
いろんな感情がこみ上げてくる。
「雨霧…」
先生が顔をあげて何か思いつめたような表情でアタシの名前を呼ぶ。
先生…そんな顔しないで。
いや…だ。
今度はアタシが俯きそして首を振る。
きっと今から先生に言われるのだ。
冷たい言葉を。
そんなの、嫌だ…!
「なにも…
聞きたくないです…」
アタシは先生より先に言葉を口にする。
そして両手で耳を塞ぐ。
「雨霧…俺は…」
アタシは先生の声が言い終わらないうちに大きな言う。
「もうそっとしておいてください!
わかってますから…!」
先生を諦めろと自分に言い聞かせながら。
ただ2人の間に静かに雨が降りしきる。
聞こえるのは雨の音だけ。
それ以外…わからない、
もうなにもわからない。
「…雨霧…」
そしてやっと聞こえた辛そうな先生の声。
でもずっと耳を塞ぎ俯いて話を聞こうともしないアタシの態度にどうしようもないと思ったのか
先生の、ためらう気配がして。
それから少しして…
先生は雨の中、アタシから離れて行った。
それでもアタシは両手で耳を塞いだまま。
そしてしばらくして手を下ろしようやくアタシは顔を上げる。
その先には先生が雨の中消えてゆく後ろ姿があった。
「あ…!」
先生…。
アタシはその場に泣き崩れる。
とうとうアタシから先生を拒んでしまった。
こんなにも好きなのに。
怖いから。
哀しいから。
辛いから。
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どれくらいの時間がたったのか…
「雨…霧?」
聞き覚えのある声にアタシは顔を上げる。
「空…く…ん」
アタシは慌てて涙を拭う。
彼は何も言わず泣き崩れていたアタシの手を取って立たせる。
「ずぶぬれじゃないか」
そう言って木村くんは傘を差し出す。
傘の中で2人向かい合わせになり、
でも言葉が出ない。
何を話せばいいのか。
アタシ何を言えばいいのか。
彼はこんなアタシの姿を見てどう思っているのか。
「あ…あの…」
やっとの思いでアタシが言葉を口にすると彼は言った。
「こんなときに言うのはずるいかもしれないけど…」
木村くんのこれまでにないくらいに真剣な表情。
「ごめん、さっきの…
雨霧と先生…
立ち聞きするつもりはなかったんだ…。
でも俺なら雨霧を泣かせることは絶対にしない…!」
アタシは彼の言葉に思わず後ずさりする。
今、そんなこと…!
でも彼は傘を投げ捨て彼から離れてゆこうとするアタシの両手を掴み抱きしめて言った。
雨の中、
彼の体温が伝わってくる。
「雨霧が先生のことを想っている事はわかっていたんだ、
ずっと。
でも…」
彼のその言葉に心臓が破裂しそうになる。
「知って…た?」
アタシのやっとの小さな声に彼は答えた。
「ああ。
いつだったかオマエの好きな人って先生か?
って聞いたことあったろ?
…そのときの雨霧の反応みてそう思った」
あのときアタシが聞こえないフリした…。
彼は知っていたのだ。
ずっと。
「でも…!
俺を見てほしい。
…俺は先生よりもずっと雨霧の近いところにいる!」
いつもの木村くんじゃない。
またアタシ木村くんを困らせている。
だから…こんな…ことに…。
本当は違う。
先生を拒絶したいんじゃなかった。
本当は…
本当は…先生と…
ずっと側にいて欲しかったのに。
「ごめん…アタシ…」
「高篠先生のことが…?
そんなに好きならどうしてさっき…!」
彼は真剣な表情をしたままアタシの両肩を押さえゆするようにして続けた。
「どうして先生を拒絶するようなことを言ったんだ!」
「いや…だった…もうこれ以上。
きっと先生は…」
それでもアタシは…
アタシは…先生のこと…。
「どうして…」
力なく木村くんが言った。
「ごめんなさい…。
アタシのこといつも大切に考えてくれるのに…」