明日、高篠先生と一緒に笑って恋が始まる。


---from 葵---

なんだろ。
なんの話だろ…。

アタシはこないだ先生から返されたプリントと一緒にもらった日時と場所が書かれたメモを眺めて考える。

でも先生が話って…。

あの日、
先生と女の人が一緒にいるところ…
2人を目の当たりにしてなんだかもう不安なことしか浮かばない。

でもせめて本だけでもちゃんと返したかったな…。



あの後、本を探しに戻ったけれどもう本はなかった。

せっかく先生のために。

もう二度と手に入らないだろうな…。
手に入れるの難しかったって言ってたもの。


それより早く1日が来ればいいのに。

ううん、
来なくてもいい。

哀しい話なら…いらない。


未来が少しでも感じ取ることができればいいのに。

そしてその未来が自分にとって辛いことなら避けてしまえたらいいのに。




そんなことできるわけ
…ないか。

でもそんなこと考えなくても決定的だ。





7月1日はきっとアタシの中で最悪な1日になる。












―7月1日―





ちょっと時間には早かったかな。

そんなこと思いながら空をぼんやりと見上げる。

今にも泣き出しそうな空。
アタシと同じ。

ポツリ…。
一滴、頬に落ちた。

雨が降ってきたみたい。
頬に落ちた雨を指で拭う。


少しして雨が降り始める。


雨のせいでそのうち視界がはっきりとしなくなってきた。


すごく…嫌な時間。

1分がとても長く感じる。



そんな中、
しばらくして白衣姿の先生が見えた。
でも雨のせいで表情がわからない。

ゆっくりと先生はアタシの側へとやってくる。


いろんなことが頭をよぎるけれど冷静を意識するようにした。

でも、
そのつもりでも先生の顔を見た時、

やっぱり…怖い!

聞きたくない。

途端にアタシは冷静じゃなくなって…
いろんな感情がこみ上げてくる。


「雨霧…」

先生が顔をあげて何か思いつめたような表情でアタシの名前を呼ぶ。





先生…そんな顔しないで。
いや…だ。

今度はアタシが俯きそして首を振る。


きっと今から先生に言われるのだ。
冷たい言葉を。


そんなの、嫌だ…!

「なにも…
聞きたくないです…」


アタシは先生より先に言葉を口にする。
そして両手で耳を塞ぐ。

「雨霧…俺は…」

アタシは先生の声が言い終わらないうちに大きな言う。

「もうそっとしておいてください!
わかってますから…!」


先生を諦めろと自分に言い聞かせながら。






ただ2人の間に静かに雨が降りしきる。
聞こえるのは雨の音だけ。

それ以外…わからない、
もうなにもわからない。

「…雨霧…」

そしてやっと聞こえた辛そうな先生の声。


でもずっと耳を塞ぎ俯いて話を聞こうともしないアタシの態度にどうしようもないと思ったのか

先生の、ためらう気配がして。



それから少しして…
先生は雨の中、アタシから離れて行った。

それでもアタシは両手で耳を塞いだまま。







そしてしばらくして手を下ろしようやくアタシは顔を上げる。


その先には先生が雨の中消えてゆく後ろ姿があった。

「あ…!」

先生…。


アタシはその場に泣き崩れる。
とうとうアタシから先生を拒んでしまった。



こんなにも好きなのに。


怖いから。

哀しいから。

辛いから。







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どれくらいの時間がたったのか…

「雨…霧?」

聞き覚えのある声にアタシは顔を上げる。

「空…く…ん」

アタシは慌てて涙を拭う。

彼は何も言わず泣き崩れていたアタシの手を取って立たせる。


「ずぶぬれじゃないか」

そう言って木村くんは傘を差し出す。


傘の中で2人向かい合わせになり、
でも言葉が出ない。

何を話せばいいのか。

アタシ何を言えばいいのか。






彼はこんなアタシの姿を見てどう思っているのか。

「あ…あの…」

やっとの思いでアタシが言葉を口にすると彼は言った。


「こんなときに言うのはずるいかもしれないけど…」

木村くんのこれまでにないくらいに真剣な表情。


「ごめん、さっきの…
雨霧と先生…
立ち聞きするつもりはなかったんだ…。
でも俺なら雨霧を泣かせることは絶対にしない…!」


アタシは彼の言葉に思わず後ずさりする。

今、そんなこと…!