サキは一度目を伏せ、深呼吸すると、


「ねっ、生きていれば会えるのよ。生きていれば……。でも私はどんなに会いたいと願っても二度と彼に会えない。お互い姿が見えない場所にいるから、恋人には戻れないの。さっき歌っていた曲は、彼とよく聴いていた思い出の曲」


 サキの恋人は亡くなってしまったということだろうか。そうだとしたら、サキは俺なんかよりもっともっと苦しみながら過去を彷徨ってきたはずだ。「Parting tears」は、サキにとっても特別な曲か。


 ――情けないな俺は。でもきっと俺は生涯結麻以上に誰かを愛することはないだろう。けれども結麻のことを誰かに話すことで、こんなにも楽になるものなんだな。これから少しは現実を歩いて行けるような気がする。


 そう思い、ふと隣りを見ると、そこにサキの姿はなかった。

 あれ? 

 キョロキョロと辺りを見渡したけれど、海岸には誰もいない。ただ微かに「Parting tears」が聴こえ、それはすぐに波の音に変わった。