電車とバスを乗り継ぎ、結麻の新しい引越し先の家に着いた時、チャイムを押そうとしたけれど俺はどうしても押せなかった。何度も押そうとしたけれど、今更俺が姿を現したところできっと結麻には近づけない。そんな気がして指が震えた。愛しても愛しても結麻は遠ざかるのではないか、そんな不安ばかりが募り、結局俺は引き返した。



 それからの俺は、結麻のことを忘れるため、昼はサラリーマンをし、夜はカフェで働き、忙しい毎日を過ごし始めた。それでも結麻のことを忘れた日は一日もない。忘れたくても忘れられなかったと云った方が正しいのだろう。そして暇な時間が少しでもあれば結麻がいないことへの寂しさが溢れてしまう。

 隼人や今西に色々な女を紹介され、何度かデートをしてみたけれど、結麻と重ねて見てしまい、途中で上の空になっている自分に気付く。やはり俺は結麻じゃないとダメなんだと何度も自己嫌悪に陥ってきたものだ。