そうして上体を折ってまでひとしきり笑った後、一息吐いて身体を起こした雉世の眼差しに、背筋が凍るのを感じた。

────狂気。
それを彼らが言えたことではないはずなのに、細めた瞳に垣間見えた異質は、底がないように思えて、体験したことのない感情に襲われた。
それが“恐怖”なのだと、彼らは知らない。

「君達にはお礼をしなくちゃね……随分楽しませて貰ったし、」
「……は? 何言ってんだよ、」
「後ろを見てみなよ」
「……、え」

なぜか有無を言わせない響きに、意識の及ばない所で従ってしまったのが、いけなかったのだろうか。

背後には、恐らくそれほど遠くない過去には活気が溢れていたであろう、今では無人の廃工場が、西陽を遮っている。
埃や排気で汚れて曇り、所々にひびが走る窓硝子の向こう、真っ暗闇の中に、彼らは確かに、視たのだ。

黒く巨大で、ひどく醜い有り様の、怪物の姿を。




「いいモノ見れたデショ? それじゃまた、学校でね」

その声が不自然なほど近くから聞こえたことに振り向く暇も、明らかに人間とは違う、見たこともない生物に目を瞠る隙すらもなく、3人は、熱と強風、そして衝撃に身体が軋むのを感じた。