「加代ちゃん。あんまり祥一郎くん困らせちゃダメだよ?」


くすり、と笑いながらベッド脇に来たこの人は、顔馴染みの原田先生。無精髭がやけに似合うダンディーなおじさんだ。


「うん。わかってんだけどねー」


苦笑しながらも俯いてしまう。

心配かけないように体調管理はしていた。しかし、最近あまりに調子がいいので油断してしまったんだ。
だから、好きなことをしていても大丈夫だろうと…。


すっかり意気消沈した私は項垂れるようにベッドに横になると、原田先生は可笑しそうに、くくっ、と笑いながら頭を撫でる。


「加代ちゃんが可愛くて仕方ないんだよ。解ってあげなさい。」


そう言いながら扉を指差す先生に、思わず笑みが溢れてしまった。


上半身を起こして、少し前のめりになると


「…ごめんね、兄ちゃん。だから戻ってきてよ」


大きめに声を出すと、間があってから兄が部屋に入ってきた。


「…ちゃんと反省したんだろうな?」


扉付近で立ったままそう言う兄は、心なしか鼻声だ。よく見れば眼も赤い。

ごめん、心配かけて。
心の中で呟きながら、こくりと頷くと、次は兄に頭を撫でられた。


少し気恥ずかしいけど、許してくれたように感じて胸がほっこりする。



その後。

美しきは兄妹愛だねぇー。
なんて感慨深げに見つめる先生の生暖かい視線に見送られながら、病院を後にした。