「…俺が見えるのは、死人や危篤状態の人間だけだ。」
私の疑問を解っているかのような言葉に少し驚いた。
彼はまた顔をこちらに向けた。相変わらずの無表情だが、その眼には困惑が映し出されている。
「だから、本来は俺のことは見えないし、見えてはいけないんだよ。」
ひやり、と頬が冷える。
感触がする方に手をやると、彼の細い指先に触れた。
「…触れることも出来るのか」
少し眼を見開くと、するりと手を頬から離した。
見えることも、触れることも、本来有り得ないことなんだろう。
彼の表情にみるみる困惑が拡がっている。
「…例外は、いつもあるんだよ。」
…そう。知らないことなんて星の数程存在する。
それを実感しながら、十六年間生きてきた。
にぃっと笑って見上げると、眼を丸くしたギンジと視線が交わる。
「…お前は、変わってるな。」
ふっと笑うのを見たのと同時に、頬が冷える。
「……冷たい手だね、ギンジは。」
「…ああ。お前の手は温かい」
ふふっと笑って手を重ねると、彼はそのまま動かないでいてくれた。
それに安心した。
さっき、手を抜かれたのが拒絶されたようで悲しかったから…。
冷たさがやけに心地好くて、眼を閉じる。