朝より雲が多く漂っている空を見上げながら歩く。


かろうじて晴天だが、昼過ぎには青は遮られるんだろうな。と考えながら口にした言葉は、兄にとって生け簀かないものであったらしい。



私を家まで送るまで終始無言を貫いた兄は、そのまま仏頂面で学校に向かった。



「…そろそろ、解ってくれなきゃ困るよ。」


パタン、と閉じた玄関の扉に、届かない言葉を漏らす。

陽の光が届かない玄関先は薄暗くて、湿っぽくて。
気分を落ち込ませるには似合いすぎる場所だ。


だから、考えてしまう。


父や、兄のこと。

亡くなった母のこと。


そして、自分のこと。









《お前、もう見えるのか――…》



突然頭に響いた声に体が震える。


…そういえば、あの人はどうしたんだろう。



ふと、朝見掛けた黒傘の男性のことを思い出した。
妙な出で立ちだったから、警察にでも連れて行かれたのだろうか。駐車場には居なかった気がする。



「綺麗な瞳、だったな」



細く型どられた中で光る緋色は、眼が離せない程に魅力的だった。

カラーコンタクトでいろんな色の瞳をした人を見たことはあるが、明らかな作り物にあそこまでの惹き付ける力は出せるのだろうか?


天然、なのかもしれない。


それはそれで、大変な思いをしたんだろうか。



どんどん思考が外れていく自分にはっとして、とりあえず制服は脱がなければいけないなと自分の部屋に足を向けた。