今はもうなんとも言えない。

だって,自分が今こんな感じだから。


まゆを剃り,まつげをつけて,化粧をする。


当たり前だった。




…ちなみに,あの時出てきた男は,あれ以来会っていなかった。


会いたくても,顔を名前も分からないので,探しようがなかった。


あの後…目が覚めるともう病院にいた。

お母さんが手を握り…涙を流していた。



「…お兄さんは?」



あたしはお母さんに聞いた。



「お兄さん?…あぁ,病院まで連れてきてくれた人ね。…あの人がどうかしたの?」



お母さんはどこか悪い表情を見せ,そう言った。


「…別に……」

「そう。…とりあえず,もう少し寝ていなさい」

「………うん…」



会いたかったな…。

せめてお礼を言いたかった。



実は,今でも心のどこかでその「お兄さん」を探していたりする。


声が似ている人を見かける,つい振り返ってしまう。

…それくらい,その人に会いたかった。



―――――このことは,誰も知らない。

菜子にも言わない。


そう…決めていた。



「そういえば香織~。お前明日誕生日でしょ!!」

「あ,ほんとだ。」