「でもあたしたちのせいでお義兄さんが疑われてるなんて、申し訳がないわ」

「本当のことを、奥さんに話したらどうですか？」
　
類が言うと、田口氏は口ごもった。

「とにかく私はあなたの行動には何の怪しい点もなかったと、奥様に伝えるつもりです」
　
その言葉に、類は驚いて師匠を見た。

「何も、わざわざ不和の種を撒かなくてもいいだろう。とにかく田口さんには、奥さんが疑うような行動はやめてもらわないといけない」

「そうね。あたしがどうしても一泊で出張に行かないといけないことがあって、そのとき、お義兄さんは、自分が出張だってウソをついて、子供達を見に来てくれたのよね。そういうのが、お義姉さんにバレて怪しまれたのね」

「今後、気をつけるようにします」
　
田口氏が萎れて言った。　　
　
と、師匠が立ち上がって、

「真実はいつも一つ」
　
類は蹴りを食らわしてやろうかと思ったが、思いとどまった。