またいつものようにスーツを着込み、支度を進める。
そして秀明は、あの昨夜と同じように一枚の紙を取り出した。

「鏡月、出てきぃ」

ひらひらと舞い落ちる紙。そこに書かれた文字が光を帯び、大きくなる。
光が消えたとき、その場には着物を着た青い髪の女性がいた。
耳には鏡のピアス。女性の周囲には不思議な事にいくつもの鏡が浮いている。

「早速やけど、来週の星みせてくれんか?」

「星詠みをなされるのですか? 承りました」

明らかに人とは違う女性に驚くことなく命令を下す秀明。
女性はすぐにうなずき、手に持っていた大きな鏡を秀明に渡した。
その鏡に映っていたのは秀明の顔ではなく、夜空の星だった。

鏡月と呼ばれた女性。
彼女は人間ではなく、かといって妖怪でもない。
長い年月をかけて魂を持った鏡の付喪神。
その鏡は真実と過去、現在、未来を表すと言われている。
『陰陽師』秀明の命令に忠実に従う『式神』でもある。

「……おとめ座に凶か。やな予感すんなぁ。何もおきんとえぇけどな……」

「秀明様、お言葉ですが、あの半妖と関わるのはお止しくださいませ」

星を詠み、星座ごとの運勢を見て行く秀明。
冬矢のおとめ座が思わしくなく、細い眉が寄せられた。
それに向かいあう鏡月は、秀明の口から冬矢の事が出てきた事により、顔をしかめる。

「貴方様は花宮家の次期家元候補にございます。自覚を持たれてください」

「鏡月、黙っときぃ」

陰陽師の家元候補であるとなれば敵対するはずの妖怪と安易に関わるのは避けるべき。
さらには冬矢にはある事情もあるのだ。
静かに秀明は鏡月をたしなめる。

「母親違えど、俺の弟や。誰の口出しも受けへん」

「……」

鏡月は顔をうつむかせる。

「もうえぇわ。鏡月、帰りぃ」

秀明の静かな声によって鏡月は消えた。秀明の手元には鏡月と書かれた紙。
それをしまいこみ、秀明は先ほど見た星占いの結果を書き記し、それを持って出た。


雑誌『one life』編集長。
現代陰陽師の家元候補。

それと同時に花宮秀明は、

雪代冬矢の異母兄弟だった。