「すずめ、ご飯」

昨夜、冬矢の部屋を占拠していた女性――恭子が鳥カゴに朝食のパンのクズを入れた。
鳥カゴの中のスズメはそのパンのクズを美味しそうについばむ。
スズメが人に飼われるという事は非常に珍しい事だ。

――普通であれば。

「まだ妖力は……少ない」

恭子の言うようにこのスズメも、妖怪の一種だ。
さらに言うならば、昨夜の居酒屋で一人店を切り盛りしていたあの少女の昼の姿。
彼女の名は、夜守すずめ。
立派な妖怪なのだが、まだ妖力が弱く太陽の日の下では妖怪の姿を保てない。
そのために、今はこうしてスズメの姿にならざるを得ないのだ。

カラスと洋子は出かけ、すずめは昼間は働けない。
ゆえに、平日は冬矢と恭子の二人しか働ける店員がいない。
求人情報を雑誌に載せたりして、バイトを増やそうとはしてみても、
店員の正体発覚を恐れ、採用するのは妖怪のみ。
どれほど女性が面接受けようとしても、人間ならば落ちる。
妖怪のバイト希望者はなかなか見つからず、ずっと平日は二人だけだ。

さらには、恭子自身も、あまり熱心に働いていない。
なので、実際は冬矢しか喫茶店の店員として機能していないのだ。
客の出入りも多いので目が回るほどの忙しさ

おそらく今も掃除でもしているのだろう。
それを知っていながら恭子は売り物の紅茶に手を伸ばしていた。
冬矢はこちらに気づいていない。気づくはずがない。
とりあえず恭子は紅茶で優雅に休憩をしながら、常備している雑誌の表紙をめくった。

めくるたびに様々な情報が書かれている。
有名芸能人のインタビュー、街角ファッションチェック、芸能ニュース、
政治ニュース、町のニュース、求人広告一覧に、都市伝説投稿、星座占い、
他にも若い女性をターゲットとしながらも、幅広いニーズに応えている。
これがこの雑誌『one life』の人気の秘密である。

「冬矢はおとめ座だから、6位。……微妙」

とくにこの雑誌の占いは的中すると若い女性の間で人気を博している。
それも当然だろう。だって――

本物の『陰陽師』が占っているのだから。