「!」
その中で、冬矢はある異変を感じた。
針のように突き刺す鋭い妖気。恐ろしいほどに鋭く、そして強い妖気。
とっさに体が動いた。
「兄貴、危ない!」
秀明の体をひっつかみ、後ろへと飛び退く。
その刹那、黒い羽根が、山姥の周囲に舞い下りた。ふわりふわりと、黒く美しい羽根が落ちてゆく。
「この羽根は……?」
突然の状況変化に戸惑う秀明をよそに、冬矢は羽が舞い降りてくる上を見た。
そこには、金髪の少女が立っていた。じっと、こちらを見つめている。
「あ、あ、あ、あ、ああ」
山姥は声を出す。少女は山姥の方に目線を向けた。懇願するような目の山姥。すべてを終わらせてくれと言わんばかりで、少女は小さくうなずいた。
背中から、美しい翼が生えてきた。黒く、だが美しく、彼女は翼を広げ、羽根がひらひら舞い下りてゆく。
「……貴方は、もう用済みです」
黒い羽根が、山姥に触れる。
その瞬間、山姥の体は朽ち果てた。黒い羽根が、ただ山姥に降り積もる。
「なんだ……アレ」
「鴆……………」
見知らぬ妖怪。突然死んだ山姥。意味が分からず困惑する冬矢に、やっと落ち着いた秀明が答えた。鴆。それが、妖怪の名前。
「猛毒の羽をもつ鳥妖怪だ」
そう短くも的確な説明をした時、少女、鴆が舞い下りた。
二人の前に立ち、手を出し、その手から一枚の羽根が落ちる。それは鴆の羽根ではなかった。どこかで見たことのある羽根だ。
「トラツグミっ!」
「……またいずれ、お会いしましょう」
少女はそれだけを言って飛び立った。
やはり、状況がつかめない。
何が起きたのだろうか、分からない。
ただ、山姥は死んだ。
それだけだ。