がしゃどくろとの戦いが、恭子の手によってあっけなく終了し、百鬼は安堵した。

残るは、冬矢達のみ。彼らは、あの氷の檻の中で戦っているのだろう。
ただじっと見て、待っていた。

「……秀明」

ぽつりと、恭子は呟く。
秀明の抱える過去を思い、氷の中での光景を想像し、唇をかみしめた。

「………………」

ただ、事の終わるのを、待つしかない。
待つしか……





「殺して下さい、殺して下さい……」

氷の中では、恐怖に震える老婆の声が高く響いた。
山姥の前に秀明は立っていた。その手には、山姥の腕。
踏みつけているのは、山姥の足。

山姥は、両手と両足を引きちぎられていた。
傷口は冬矢の氷によってふさがれ、血が流れ出す事もなく、冷たい痛みが絶え間なく、山姥を襲う。

「まだまだ。食事は終わってなんかないで? 死ぬ前に、美味しいご飯、たぁんと食べぇな。ほら」

凍りつくような笑みで、秀明は山姥の口に、山姥の腕を突っ込んだ。
そしてそのぎらつく目は、その自分の腕を食うようにと、無言の指示を送る。

「……」

自分の肉を食わせている。その光景に、冬矢は何も言わなかった。
言えなかった。
この兄は歪んでいる。この瞬間、鬼を相手にする瞬間に、彼は豹変してしまうのだ。鬼をただ憎み、鬼を滅する以上の苦しみを与えることを考える。鬼を、彼は憎んでいる。血が、じんわりと地面を染める。

骨をかみ砕く音。肉を食いちぎり、臓物が潰れる音。
その音が聞こえる。山姥は、ギリギリ生きられる範囲で自分の肉を食わされ続けた。