恭子はすっと酒を取り出す。それを地面へと流す。
「鏡に映る花、水面に映る月。そこにあるのにそこにない。あるようでない。ないようである。だからこそより存在を感じる。より、存在を感じない」
紡がれる言葉に、がしゃどくろは震える。
その様子を、わけも分からず、百鬼たちは見ていた。
いったい何が起こっているのか、理解の範疇にない。
「……だがお前はもうどこにも映らない。どこにもいない。誰にも見えない。何も感じない。完全なる無の存在。あまりにも小さくて誰もが見るに値しない存在。存在ごと、お前は消えろ」
最後の酒の一滴が地面に落ちる。
落ちた酒がつくる水たまりに波紋を起こす。
ゆらり、ゆらり……
歪んで映る景色。がしゃどくろも水面でゆがむ。
ゆらり……
波紋は激しくなり、がしゃどくろの判別がつかないほどゆがむ。
ゆらゆら……
波紋が落ち着いてゆく。静まる波紋にがしゃどくろの姿は吸い込まれる。
ゆらゆらり……
波紋がやんだ時、水面にがしゃどくろは映っていなかった。
がしゃどくろという存在が、その場から消えた。