鈴の様な声。圧倒的な空気を醸す特別な存在で、妖怪を、魑魅魍魎をすべる百鬼の女王。
ぬらりひょん。由良恭子がそこにいた。

「がしゃどくろ、もう…………止めておけ。前世を思い出せ。出なければ繰り返す」

しっとりと恭子は囁く。
がしゃどくろは動きを止めた。あの叫び声もピタリと止んだ。
恭子の声が、言葉が、強い存在感を持って耳に届く。

前世、とは、なんだろうか。

単純に目の前に出された者に、すぐにがしゃどくろは食いついた。
ただ考える。自分が鬼童丸の骸から生まれた現世、その前、がしゃどくろとして生きていた時のことを思いだそうと巡らせる。

「残念だよ、どくろ」

恭子はぼそりと呟いた。

「! あ、あぁぁあぁあ……」

その言葉をきっかけに、がしゃどくろは音をたてて震えた。
前世を思い出した。自分の無惨な最後を思い出した。
愚かな自分は恭子の百鬼にいながら、他の妖怪にそそのかされ、牙を恭子に向けた。
その結果、恭子の手によって殺された。消された。

今は、山姥にそそのかされ、恭子の秘蔵っ子である冬矢を傷つけた。
恭子の逆鱗に触れていた。
自分の未来に、恐怖が何よりも、恨みの感情よりも勝り、ただ怖い。


「……ゆ、許し……」
「消えてしまえ。何もかも」

許しを請う前に、最期に聞いた言葉が再び向けられた。