「…………なんと?」

「俺の首はくれてやるって言ってんだ」

山姥は冬矢の言葉に戸惑っていた
突然言い出した言葉の内容を理解した時、どうすべきか考えた。

憎しみのままに、冬矢を殺せばそれでいい。要求をのんでもいい。
だが、
大切なこの娘を目の前で殺す事もまた、大きな絶望を与えることになる。







少し考え、結論を出した。

「良かろう。もともとお前を呼ぶためのエサじゃきに……。お前が死ねば解放しよう」

冬矢の要求を、のむことにした。
陽はぽろぽろと涙をこぼして、冬矢を見つめる。

「ダメ。冬兄……だめ……」

空想の作品では、自分の事は気にせずに目の前の妖怪を倒せと言うだろう。
でも、それはフィクションでこそ出るセリフで、いざそう言う場面にくれば、何も言えなくなる。弱く拒否をするしかできなくなる。
命が、惜しい。冬矢が死ぬことは悲しいが、それ以上に、自分が死ぬことが怖い。

情けない。怖い。あふれ出す感情が頬を伝い滴り落ちた。


「刀を捨てろ……」

山姥の命令。冬矢は手に持っていた氷雪丸を遠くへ投げ捨てた。
ゆっくりと立ち上がり、氷が徐々に溶けだして、また体が紅く染まる。
瞳とおなじ紅が、体から流れ出した。


「がしゃどくろ……私が次の指示を出すまで、生かさずに、殺さずにいたぶりなさい」

傷口が開き、片膝つく冬矢に、がしゃどくろの手が迫る。
山姥は笑う。


「鬼童丸や……。貴方を滅した男の息子を送ります。地獄でたぁんと、喰らいなさい」

満面の笑みで、山姥は囁く。


  ――グシャ……バキ……ッ


冬矢を破壊する音が、あたりにこだました。