時は少し戻り居酒屋『百鬼夜行』
氷漬けにされた秀明はようやく助けられた。

「あのバカ……一人で行きやがったな」

「……何か……あるのか?」

秀明は座敷に座り、苦言を吐く。そこに恭子が問いかけた。
もはや、自分が抱えられるものでもない。秀明は山姥のことを話した。



「復讐か。だが、あいつの息子ってことなら秀明だって一緒じゃないか。なぜ冬矢が標的になる?」

「あいつが混血の異端でもあるからだ。同じ妖怪のくせに、仇の息子。憎しみも大きいだろうよ」

話を聞き終え、烏丸が口にした疑問。それを秀明は目線を合わすことなく答えた。
ポケットを探り、札の枚数を確認していく。

「……今から俺は行く」

「でも、危ないですよ秀明さん! わ、わたし……も……」

立ち上がり冬矢の後を追うと言った。
それを洋子は引きとめる。私も共に行くという言葉だそうとして、言葉を詰まらせた。

「無理すんな。百鬼夜行の主である冬矢の命令じゃ動けないだろうからな」

主の命令は絶対。それが百鬼の掟であった。
去り際に冬矢は命令した。関わるなと。その命令に、誰も逆らえない。
洋子は口をつぐんだ。

「……百鬼は、まだ……」

「ん?」

だがその中で、恭子だけは口にした。

「百鬼はまだ冬矢に正式に継承されていないから、まだ、私の物」

冬矢は出る際に百鬼を率いらない理由として言ったことを言った。
百鬼夜行はまだ恭子の物。だから冬矢の命令より、恭子の命令が強制力があるのだ。

「……すずめ、あなたは妖力がまだ弱いから店に残りなさい」

「えっ……でも……うん」

命令は絶対。恭子の命令に、すずめはうなずいた。
そして恭子は洋子とカラスに向き直る。

「町の百鬼を集めなさい。久々ですが、感は鈍っていませんね? 出入りです」

凛とした主の雰囲気。ただならぬ存在感を持ち、恭子は立っていた
いつも存在感が薄いぬらりひょんが、その時は存在を浮き彫りにしていた。


阿弥樫町。
昼は人の物。夜は妖怪の物。
闇夜にうごめく異形の物。列をなして動く。

今、妖怪は百鬼夜行の群れをなして、嫗山を目指し歩いた。