やがて、がしゃどくろは踏みつけをやめ、横たわったボロボロの冬矢をつまみあげる。
死んだかどうか確認しようと、顔を覗き込んだ。

「……ああ、あっぶねぇ……。死ぬところだったじゃねぇか……」

だが、確認するまでもなく、冬矢は言葉を発した。
陽はすぐに顔を上げ、冬矢の姿を目にする。

動いていた。生きていた。

手で口の端の血を拭う。

「頭に上った血が抜けたおかげで冷静になった……感謝しとく」

ポツリポツリと喋る。
冬矢の体は徐々に氷が覆い、傷口を塞いだ。

「じゃあ、おろしてもらおうか」

刀を持たないもう一つの手に、冷気が集中する。そして氷で形作られた札が姿を現した。
それを投げ、がしゃどくろの肩に張り付け、念じた。

「爆ぜろ……」


  ――バァンッ


銃声のような大きな破裂音。
がしゃどくろの肩から先がはじけ飛び、冬矢は宙に投げ出され、着地した。

「あの男の術……おのれぇえ、貴様は妖怪のくせして……」

低い低い山姥の呟き。
妖怪でありながら陰陽師の術を扱う冬矢の姿に、山姥は憎しみに震えていた。

爆発でひるむがしゃどくろをしり目に、冬矢は山姥に歩み寄る。
そして――...


「山姥よ……。
 俺が憎いなら命はくれてやる。だから、その娘だけは返してやってくれないか?」