陽は呆然としていた。
これほどまでに怒った冬矢を見たことがないからだ。
怒りをむき出しにして、吹雪を起こす彼を、見たことがない。

「陽を話しやがれババア!」

冷気を吐き出し、直後に飛び込んで、刀を振りかぶる。
氷を纏う刃が山姥に振り下ろされる。
が、

「そんな勢いでは、大事な姪子さえも斬ってしまうぞ?」

「黙れッ!」

山姥はがしゃどくろにすくいあげられ、刀を逃れた。
空振りした刀は床を割り、周囲を凍らせるだけ。また、冬矢は山姥を睨みつける。
しかし、山姥は意に介さずに、がしゃどくろに指示を送る。

「踏みつぶせ」

「!」

振り上げられる巨大な足。冬矢は冷静さを既に失い、真正面に山姥に向かっていくところだった。よけるということに意識は向かず、山姥を目前に、


  ――グシャ……ッ


踏みつぶされた。


「――――ッ!!」

悲痛な陽の悲鳴。あたりに血がまき散らされる。何度も、なんどもがしゃどくろは踏みつけた。
悲鳴も起きず、血がじわりじわりと大地を染めて行く。

目を覆った。
見るに耐えられない。

陽はその光景を、見ることすらできず、耳をふさいだ。