その頃で冬矢は走っていた。言われるように一人、刀を手に持ち、嫗山の山道を登っていた。行く手を阻むものはいない。元凶の元へ誘われるように、山を登る。



「!」

中腹を超えたとき、冬矢の耳にある音が届いた。

  ――ガシャッ……ガシャッ

がしゃどくろの動く音だ。それはだんだんと大きくなる。
近づく音。見上げれば、もうそこにがしゃどくろの顔があった。

「言われたように、一人で来た。ババ様とやらに会わせろ」

「…………」

がしゃどくろは歩きだす。それに続く。がしゃどくろの歩幅はやはり大きいので、走って追う。


そうしてがしゃどくろの案内の元、冬矢は山小屋へと到着した。
走りっぱなしで乱れた呼吸を整える。山小屋の戸に触れる。
肌に直接感じる妖気。山妖怪とあり、刺すような大きい妖気だ。
固唾をのみ、戸をあけた。


「陽ッ!」

「冬兄……っ」

戸をあけて飛び込んだ光景は、一人の老婆の姿をした妖怪が、陽を抱き抱えていた。
名前を呼ぶ。返事は弱々しい。
明らかに弱った陽。それを抱える山姥に対し、冬矢は激昂した。刀を抜き、切っ先を山姥に向ける。

「血の気が多いな……」

「うるせぇ」


山姥の言葉にまともに答えない。


「この娘がそんなに大事かえ?」

「黙れ」


一歩一歩、踏み出す。冬矢のあるいた地面が凍りついてゆく。
そして山姥が次の言葉を出そうとした時、冬矢の言葉がそれを遮った。






「俺の大事な大事な姪っ子に手ぇ出すんじゃねぇッ!!」







怒りの咆哮は吹雪となり、周囲を凍てつかせた。