(頭が……いたい……)


パチパチと、音が聞こえてくる。
テレビなどでよく聞いた焚火の音

「ん……っ」

ゆっくりと、陽は、瞼をこじ開けた。
目の前にまず飛び込んだのが、今はめったにお目にかかれない囲炉裏。その前に座る老婆らしき人影

「お婆ちゃん……だれ?」

その声を聞き、老婆はゆっくりと振り返る。その顔に、陽は息を詰まらせた。
口から滴り落ちる液体は火に照らされ、紅く光る。そして老婆の顔は醜く、口元から牙がのぞき、鬼を思わせた。京都の秀明の実家にある本で見た物と良く似ている。


「山姥……っ」

「お目覚めかい、お嬢ちゃん」

妖怪は何度も見てきた。冬矢や烏丸や恭子、洋子にすずめ。他にもたくさん見てきた。
だから直感でわかった。今、目の前にいる山姥は危険だと、五感が知らせてくれた。
体中が、ここから逃げろと命じている。だがそれを妨げるように、彼女の両手両足は縛られ、身動きが取れなくなっていた。


「な、何が目的なんですかっ」

震える声で問いかける。その間に手を縛る縄をほどこうと試みる。
山姥はその問いかけに答えた。

「復讐……」

「復讐? 誰に、私に、何の関係があるんですか?」

さらに質問を続ける。縄に手がこすれ、擦り切れ、血がにじむ。





「……。お嬢ちゃん、おしゃべりだねぇ」

「――――っ!!」


一瞬の間をおいて続いた山姥の声は、低く唸るようで、恐ろしく聞こた。黒い悪魔の声。
あまりの恐怖に手が震え、縄抜けを止めた。
今ここで縄を解いて下手に逃げようとすれば喰われる。また、五感が教えてくれた。
目を固くつむる。そして瞼を開けた時に、涙がこぼれた。

(助けて……誰か、助けて……)


来るかどうか分からない助けを待つしかできなかった。それほどまでに、山姥の恐怖が陽の行動を制限していた。