「……」

帰宅途中、白峰は考えていた。また引き起こされた殺人。犯人は冬矢じゃないかもしれない。だけど過去の事件で彼は目撃証言を得ていたはず。頭が混乱する。
本当の犯人は誰だろう。冬矢ではない気がしてきた。だったら、それを究明して記事にすればいいと思うが、なかなかうまくはいかない物だ。

それに、上司のこともある。
陽に聞いたところ、もう一ヶ月以上顔を合わしていないようだ。
怪奇事件が始まってから、一度も顔を見ていない。家に立ち寄った形跡はあっても、顔を合わせることもなく、連絡もつかずにいる。
白峰の目にも、秀明が家庭を顧みない事は十分に分かっていた。いつも取材だなんだと出かけて、編集の仕事もして、家庭のかの字も口から出てこない。

「何やってんだろ……私」

自分は何をしたいのか分からないし、何を気にしているのかも、よくわからない。
どこか無性にモヤモヤして、苛立ちが募っていく。分からない。なにが起きているのか、分からないのだ。どうして秀明が神隠しの事件にあんなに積極的に関わっているのか。
どうして冬矢は目撃されたのか。事件の理由も背景も、調べても分からない。もやもやする。イライラする。


「はぁ……」

深く、ため息をついた。

その時、


  ――ヒィー……ヒィー……

か細い声が、夜の闇から響いてきた。とても弱々しく、悲しい声。そして、恐ろしい。
体が硬直して、動かない。何度も繰り返される弱々しい鳴き声。
これは……!

「っ!」

意を決し、彼女は振り返った。
そして、

「きゃぁぁあああああああっ!」

絹を裂くような甲高い白峰の悲鳴が当たりにこだました。