「冬矢、悪いニュースといいニュースあるけど、どっちきく?」

いつものように飄々と天野が冬矢の取り調べに現れた。
冬矢はじっと天野を見据える。トラツグミの羽がどうとかと以前は教えていた。
トラツグミがどうという話は聞いたことがなく、知らないと答えれば、ちょっとバカにされた。ムカついた。

「悪いニュース」

「オッケー。じゃあいいニュースから」

天邪鬼との会話はひたすら、疲れる。

「お前の店の向かいにあるベーカリーの看板娘が、昨夜殺された」

「!」

内容は、いいニュースと言っておきながら、悪いニュース。それは天邪鬼故なのだが、それ以上に、そのニュースの内容は衝撃的だった。目を丸め、天野を見つめる。

「結構無惨でさ、骨はむき出しで血も残ってなくて、顔も脳髄も心臓も、喰らい尽くされた。新人の刑事が吐いたり、ちょいと精神的にやばくなったりもしている」

「…………」

淡々と説明していく天野。殺された。知人が殺された。冬矢はその女性を知っていた。いつも恭子にお昼のお弁当を食われて空腹な時には、彼女からパンの差し入れをもらったことがある。洋子と喧嘩した時も、二人の仲を取り持ってくれた。
特別な感情はなくとも、人間のなかでは好意も持っていた。
その死は、衝撃が大きすぎた。

「次の、ニュースは?」

「そのこの指の間からいつものトラツグミの羽と犯人の物だと思われる髪の毛が見つかった。長いから、お前の髪の毛じゃないんだが一応調べてみて、一致せず」

「……」

髪の毛。証拠は羽しか残っていなかったとされていた一連の神隠しの中で、大きな違い。冬矢の目が細まる。自分でないのは分かりきっている。問題は、その髪が誰の物だということだ。

「前科者とも一致せず。しかも今回の件はお前が逮捕された事件と同一犯であるって骨に残っていた物からも分かったし、お前は完全に潔白。ここを出るのは遠くない」

「それが、良いニュースか。さっきのニュースを聞いてからだと、いまいちよろこべないな……」

知人一人の命を持って、自分は自由になる。じんわりと罪悪感が冬矢の胸に入りこむ。
天野は退室した。

「…………」

しばらく、冬矢は俯いていた。