「くくく、最高の演出だろう? 俺様の羽で人間どもが恐怖する。くくっ」

神隠しが続いていた。そんな中で嫗山の山小屋でトラツグミは高らかに笑っていた。
その様子を横で見て、山姥は不思議そうに目を細めるが、止めた。

「トラツグミ様これからどうするつもりですか?」

「まだまだ、人間を喰らい尽せ。町の人間すべてをだ! くくく」

「ですが、先日は、5人目の時点で遺骨を警察に送ると……」

神隠しにあった人間は嫗山に連れて行かれ、そして喰らわれる。
人を喰らう鬼達。そして彼らが怪奇事件を起こした張本人なのだ。
そしてトラツグミは阿弥樫町を喰らい尽すように命令をした。それに山姥は思わず口をはさんだ。その時、山姥の皺だらけの首がつかまれる。

「山姥よぉ、貴様……誰に意見している? この俺様に、逆らう事は俺様が許さねぇ」

「申し訳……ございません」

「遺骨は送らなくていい。あいつにでもくれてやれ」

「分かりました」

そしてトラツグミは山小屋を立ち去り、戸を閉めた。
彼が歩くたびに、草木は生命力を吸い取られて枯れてゆく。彼の息吹によって鳥たちは地に堕ちる。彼が笑えば、空気が黒く染まる。


「くくくっ。最高の夜になりそうだ……。久方ぶりの自由だ」

今の彼の笑みは妖しいが、以前の美しさがなかった。そこにはただ恐怖を感じさせる空気しかない。そして彼は山を降りて行く。

「人の肉を喰らい、人の血をすする。また、この日が戻ってきた。くくくく……」

彼はただ妖しく笑い声をたてる。ただただ恐怖だけを感じる声だ。
ただ彼は進んでいた。


翌日、商店街を横道にそれた場所で人の残骸が発見された。
手には数本の髪の毛が絡まっていた。長い癖の強い黒髪が複雑に絡まっていた。
だがその場に血はなかった。死体からも血は一滴も残っていない。すべての血を吸い尽されていた。
そして髪と一緒にトラツグミの羽が手の中にあった。


「ごちそうさま……」

被害者が最後に聞いた人の声はトラツグミそのものだった。