「編集長! 聞きましたか? 行方不明者が出たって」
「あー聞いた」
たびたびの調べ物から一時の休息を得ようと編集部に戻れば、室井が似合わないキラキラの目を見せて出迎えてきた。
当然話を聞ける精神状態でないために聞きながそうとしていた。
「しかも! 羽が一枚残されていたらしいんですよ! なにか面白そうじゃないですか」
「あーそーだな」
「ある刑事の方が口を滑らしていたんですけど、その羽というのは調べたところ……」
「あーはいはい」
よどみなく話す室井の横で、自動販売機に小銭を入れる。昼間からお酒もいいのだが、ばれたら部下(白峰)がうるさい。缶コーヒーにした。
「あのトラツグミの羽らしいんですよ!」
「!?」
室井の口から出た単語。それに初めて秀明は興味を示した。
トラツグミ。スズメ科ツグミ目の鳥で、人のいる街中では見かけることのない鳥。
そして、夜にか細い声で鳴くことから、昔は『鵺』とよばれ、鵺の正体ではないかとも言われた鳥。
鵺は、強大な妖力をもつ妖怪。その姿は、様々な説があるが……。
それの羽が残されていたという事は、秀明の興味を引き付けるには十分だった。
「室井」
「なんですか」
「その事件の取材、俺がやる」
そうなれば行動は早く、上司という立場を利用して室井から強引に取材を引き継いだ。
「トラツグミ……鵺……冗談じゃねぇよ」
一時の休息は返上。すぐに支度をして、編集部を飛び出した。