――ヒィー……ヒィー……
暗い町中で、とてもか細く、そして悲しい鳴き声が一人の男子高校生の耳に入りこんだ。
その声にびくりと肩を震わせる。
「気持ち悪ぃ……」
そして、大きくため息をついた。ケータイの画面を見つめ、その表情はなおさら暗い。
ケータイには、先ほど送られてきたメールの文面が映っていた。
『To:尚
From:真里
東先輩によろしくね☆』
たった一行のメール。絵文字まで使うほどに送った側は上機嫌なのだろう。こちらの気もしれずに、いい気な物だ。男子高校生――尚は舌打ちを漏らしてケータイを閉じた。
夕方、ひそかに思いを寄せる幼馴染である真里に呼び出された尚は胸の鼓動を抑えながら待ち合わせ場所の屋上へ向かい、そこである告白を受けた。
「私ね、東先輩の事好きなの! だから、お願い! 尚、協力してくれる?」
恋する男子高校生には何とも痛すぎる言葉であり、しばらく硬直していた。ようやく硬直が解けて、いまは帰る途中だ。
「東先輩、東先輩……女はみんなそればっかだ。あの目つきの悪い愛想なしのどこがいいんだか。結局アレか? 顔か?」
負け犬の遠吠えである。
――ヒィー……ヒィー……
「だぁあああああああっ! うるせ……」
そんな中でまた、あの不気味な鳴き声が聞こえてくる。傷心でまだ立ち直れない尚は叫びながら振り返る。その瞬間に、言葉を奪われた。
カシャーン……――
ケータイがその場に落ちる。だがそれは誰も拾わない。そこには何もなかった。誰もいなかった。ただ、ケータイだけがその場に落ちていた。尚の姿はどこにもない。
たった一瞬の間に、一人の高校生が消えた。
これが、阿弥樫町で起きた第三の事件、『神隠し』の一人目。
最後に耳にしたのは悲しい鳴き声で、最後に目にしたのはわからない。
ただ分かるのは、残されたケータイに、一枚の羽が挟まれていたことだった。
小さな小さな黄色い羽に、黒い模様が入っている。これは本物の鳥の羽だが、何という鳥の羽なのかはわからない。でも、ただ、不気味な気配だけは感じられた。