「冬兄が捕まった? 嘘、ですよね……」
翌日の放課後、陽は烏丸に呼び出され、屋上にいた。それも、外からも屋上の入り口からも目につかない場所なので、少しざわついてドキドキした感覚で、来たのに、衝撃的な事実に、その感覚はすぐに壊れてしまった。
「まあ、話を聞くだけの……参考人、だろうな」
「参考人だろうが容疑者だろうが警察署まで連行されたら一緒じゃないですか!」
「…………」
すぐに襟首つかむほどの勢いで迫る陽に辟易してしまうが、陽の勢いは変わらない。
「目撃証言が出たからって、似た人かもしれないでしょ! その日はあの店にいましたよね!」
「それが、ちょうど出払ってた時間でな」
すがるような思いで冬矢のアリバイを聞いても、ちょうどその日、その時間に冬矢は店にいなく、いつものように町を見回り、外道妖怪の粛清に動いていたのだ。
それを聞かされ、とうとう陽の勢いも、しぼんでしまった。
「嘘ですよ……そんなの」
「…………陽」
襟をつかむ力が、また一段と強くなる。陽は頭を烏丸の胸に預け、わんわんと泣き出す。父親は、いまだに帰って来ない。最後に会ったのはいつだろうか。そう記憶を巡らせなければならないほどに、秀明は帰って来ない。
そして、冬矢までも……。
「…………っ」
ずっとずっと、陽は泣きやむ事はなかった。
烏丸は、しばらくそのまま立っていた。もう少ししたら、日の光が弱まり、妖力が抑えきれずに、翼が生える。その時までは、このまま陽に胸を貸しておこう。