「山姥の息子、その名は鬼童丸」

その頃で秀明は自宅の押し入れを引っかき回していた。決して広いとは言えない花宮家は秀明の父親から受け継いだ古風な平屋だ。その押し入れには、父親が残した妖怪の記録が保管してあるはず。そう思って、探ったすえに、ようやく興味深い情報を手に入れた。

描かれている鬼童丸の姿は、恐ろしく醜いものだった。目は三つ。人の腕に喰らいつき、血の汁まですすり、手は血に紅く染まり、伸びる角は禍々しく、そして寒気がした。
顔がゆがみ、こちらを睨みつける姿に、秀明はそれが絵であることを忘れて怒りにその場の空気を変える。血をすする鬼の姿が醜く、卑しく、許せない。

鬼童丸は秀明の父親が三十年ほど昔に滅した妖怪らしい。すでにこの世に存在はしていないと思われる。消滅した妖怪がまた新たな命をもち、転生するには数百年かかる。その数百年の間、母である山姥は一人遺される。
ならば、山姥の目的は復讐なのだろうか? なぜ、今になって。それに、父はもうこの世にいない。なぜ今になり、復讐をするというのだ。
阿呆らしい。


「…………。わけわかんね」

考えても出てこない。それに、考えれば、あの夜の百鬼夜行を思い出し、そちらに思考がとらわれてしまう。

「面倒なことになってねぇだろうな……」

兄として、弟の現在の立場が非常に気がかりであった。