「えっ?」

取材中、白峰はペンを落とし、眼は取材相手を見つめていた。
先ほど聞いた言葉が頭をぐるりと巡り、そして言葉の意味を理解した時に、顔は青ざめて行った。

「目撃した犯人というのが……。その……」

「あの喫茶店の店長さんに間違いないです」

「雪代、さん?」

「名前は分かりませんが、『魑魅魍魎』のあのかっこいい店長さんです」

この発言が、白峰の脳内を完全にストップさせた。成人になってから早くも四年の月日がたち、十代の頃の様に一目惚れをした人物が最近続く怪奇事件の犯人として目撃されている。それがあまりにも衝撃的であり、記事にすることをためらう。
ジャーナリストの端くれで、日ごろスクープを追う身としてはこれは早速、記事にすべきことだろうが、そうすることで冬矢を追い詰めるのかもしれない。ペンは剣よりも強い。時としてスクープは人を死に追いやってしまうのだ。

「……」

白峰は硬直した思考回路のまま取材を続けるしかなかった。
何かの間違いであってほしい。何度も何度も頭の中でそう願った。