「本当!?」

後日、白峰はケータイを片手に飛び上がる。とっておきのスクープが耳に入り込んだことで、上機嫌に、そして手早く荷物をかため、取材へとかけだした。

「……目撃者が出たようですね」

「あぁ」

編集者の一人が秀明に声をかけてみるが、生返事しか帰らない。いまだに、秀明はあの夜の光景を頭の中で繰り返す。冬矢があんなにも堂々と町を歩いている姿は見た事はない。百鬼夜行は、あまりにも多くの人間の目に触れたことだろう。恐怖は確かに産まれるが、それでも、それ以上に強い興味や探究心が芽生えるだろう。それは身を滅ぼす事につながるかもしれない。それを冬矢は一番に知っているはずなのだ。

「何考えてんだ……」

あの夜に見たのは確かに冬矢だった。だが異端として山を追われた冬矢がなぜ山妖怪を率いているのかは分からない。だが見たのは確かに冬矢。間違いないのだが……

「昼飯買ってくる」

ここで考えてもなにも答えは出てこない。元凶が嫗山の山姥と分かれば、調べ物にも見当がつく。この町に住んでいた父親の資料を探れば山姥がなぜこれを行ったかもわかるだろう。対抗策もきっと。