「山姥があの山小屋に住んでんなら結局、鬼が元凶か」
会社からでて、タバコをふかす。室井の無駄にうざい妖怪話から得られたのは山姥があの嫗山の山小屋に住んでいる事。つまりは山姥が原因。その元凶にまた深く秀明は煙を吐き出した。
あたりはすでに夜の闇に包まれ、人の姿もまばらになってきた。
「…………?」
その中で秀明は奇妙な光景を目にした。
不思議に思い、目を凝らす。
「――――!」
言葉にならない声が口から出た。
目の前の光景にくぎ付けになり、息をすることすら忘れてしまう。
とっさに、秀明は物陰に隠れ、胸を抑える。心臓が暴れている。
額から汗が吹き出し、呼吸が落ち着かない。先ほど目にした光景が頭の中で繰り返す。
「百鬼夜行……マジかよ」
ようやく言葉を取り戻したのは、異形の者のなす行列が見えないほど遠くなってからだ。
肌どころか体の内部まで突き刺すような鋭い妖気は異常である。
これは町の妖怪が発せられるものではない。自然の中で自然と共にいる者。
弱いゆえに町へのがれてきた妖怪の物ではない。
山妖怪が放つ鋭い妖気。
それぞれが強力な山妖怪たちが、ずらりと行列をつくり、商店街を歩いていた。目の前の百鬼夜行を率いていたのは男。それも、秀明が良く知る姿をしていた。
夜の闇よりもさらに深い黒髪。その中で映える白い肌。白と黒のみの服装。その中で一際異彩を放つ紅い瞳は間違えることなどない。
冬矢そのものだった。