「死んだ……? あの、加藤さんが?」
昼休みに訪れた白峰の発言に冬矢は目を丸めた。あの取材以来、白峰は昼休みに決まってここに通うようになった。だがそれは今はどうでもいい。
「はい。お知り合いですか?」
「この店の常連です」
冬矢の口から出た新事実。どんな些細な事だろうと白峰はノートにメモを無意識にとっていた。これも職業病だろう。
「あの、死んだって……例の事件のことですか?」
「はい。なんでも、その家の表札に彼岸花が添えられていたそうです」
「彼岸花っ?」
店の常連が死んだ事件。それは警察もマスコミも調べているこの町の一大ニュース。
表札に添えられた花が犯行予告ではないかとウワサもたっており、気味悪がられている。
その花がなんなのか知らなかったが、白峰から聞かされて目を見開いた。
彼岸花。別名は死人花や地獄花と呼ばれる不吉な有毒植物。
今の季節には花をつけないはずなのに、添えられていた。咲かないはずの花の開花。そして彼岸花による予告。それがまた世間の注目を惹きつける。
「雪代さん?」
「あ、ああ……少し、不思議だなと」
「はい。編集長も珍しく真剣な顔していました。勘ですが、大きな事件になりそうです」
秀明が珍しく真剣な顔。
やはりこの奇妙な事件は……。冬矢は一時目を伏せて考えた。心当たりは、ない。
だが、このまま放置してはならないという危険性は理解できた。
「……白峰さん、また詳しく教えてくださいね。待ってますから」
「は、はいっ!」
ともかく、より多くの情報が知りたい。幸いにも白峰はまた通いそうだ。そこから情報を聞き出せばいい。一方の白峰も冬矢に微笑まれ、少し良い気になっていた。