「よぉ、冬矢! 今日もべっぴんじゃのう。ええこっちゃ!」

「……下品な目で店員を見ないでくれよ。一つ目」

開店した居酒屋。早速店へ足を運ぶ妖怪達。へらへら笑みを浮かべて入った男。店に入った瞬間に顔が変わり、目が一つ消えて、一つ目の大男となった。
妖力を解放できた事に、一つ目の表情は晴れやかに見える。そのあとも次々と妖怪達が来店。あっというまに、飲めや歌えやの大騒ぎとなっている。

「洋ちゃん! 七変化見せてくれや!」
「俺、花屋のみっちゃんに化けてほしい!」
「恭子さんにも化けてくれや!」

この大宴会の一発ギャグでは洋子が引っ張りダコ。特に人気なのは妖狐ゆえの七変化。酒を片手に洋子もノリノリで化けてゆく。未成年飲酒ではない。
洋子は便宜上高校生として高校に通っているが、妖怪として何年も生きている。
実年齢でいえば、

恭子は4,000年以上
烏丸は1,000年以上
洋子は600年以上
すずめは300年以上

一方で、冬矢はと言うと26年。

半分妖怪である冬矢はゆっくりと人としての成長をしてゆく。成人を迎えてからは妖力も落ち着き、自分の成長具合を調整する事も可能だが、30を迎えるまでは普通に人として老いようとし、調整はせず。
妖怪の寿命は基本的にはない。妖怪に死の概念はない。人に恐れられなくなった時は、妖力を失い、消滅する。あえて言うならばそれが死だ。

そしてこの日も、妖怪ではない人間が入店。
父親譲りの外見は見間違う事はない。一瞬、居酒屋の空気が凍りついたが、また騒ぎは再開された。

「陽、来たのか」

「まあ、ね…………」

ぼそぼそと呟きながら陽はカウンター席に着く。この店唯一の人間の常連客であり、妖怪たちとも顔なじみではあるが、陰陽師の家系であるために警戒する者も多少はいる。

「何か飲むか」

「……ウーロン茶、ハマグリのお吸い物」

「はいよろこんで」

お決まりの返し言葉。陽はさっそくお絞りに手を伸ばす。
カウンターの中では常に愚痴聞き役として誰かがスタンバイしている。今回は烏丸だ。