「本日はどうもありがとうございました」

にっこりと笑みを浮かべて白峰はお辞儀をして、喫茶店を去った。
ようやく帰ってくれて、店員は安心してため息を漏らした。日が傾き、紅く染まる空。
冬矢の瞳の様に紅く、紅く染まる空。見上げた瞬間、烏丸は自分の体の異変を感じて店の二階へ駆け上がった。

「うっ…………」

うめき声が聞こえる。洋子は時計を確認してみた。時刻は午後6時
そろそろ異変が起きる頃合いだ。あっと気付き、洋子は急いで鳥カゴを開け放った。
スズメはすぐにカゴから出て二階へ飛び去っていった。

「ギリギリだったね……」

「あの記者、しつこかったから」

白峰は取材として、冬矢に質問を続け、冬矢は営業スマイルで答えて行くが、内心ではかなり毒づいていた。しつこい。早く帰ってほしい。と、言うより、帰れ。
その理由は、今二階から降りてくるカラスの姿を見れば分かる。

「危なかった……」

「私もギリギリだった」

降りてきたのはカラスと妖怪の姿を持ったすずめの二人。妖怪の姿と言っても、彼女の姿自体は人間と変わりない。それでも元がスズメとあり、妖怪変化の瞬間は見られるのは避けたい。それに、何よりも問題なのがカラスの妖怪変化だ。
背中から大きな翼が生えていた。大きく艶やかなカラスの様な翼。太陽の光が力を失い始めた時間にこの強制的な妖怪変化が起きてしまう。太陽の光に抑えられていた妖力があふれ出し、翼となって現れる。

「じゃあ、喫茶店は閉店だ。さっさと準備を始めようか」

そして妖怪の姿を取り戻したすずめを加え、居酒屋『百鬼夜行』が開かれる。この居酒屋の存在は、人は知らない。だが町の妖怪はその存在を知り、この店の中だけは人間の目を忘れて妖怪の本来の姿で飲み食いできる。妖怪たちの自由の場所。

居酒屋『百鬼夜行』、

今この時より開店__。