「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を……」

阿弥樫高校の国語の授業。烏丸秀平――通称カラス先生が教科書を朗読している。
教卓を前に、授業を受ける生徒はみな思い思いの行動をとる。
真剣に烏丸の言葉に耳を傾ける生徒、寝てしまう生徒、物思いにふける生徒。
烏丸の容姿を顔を赤らめて見る生徒もいる。
そんな中で、陽は窓の外の景色を見ながら、また考えていた。

「父さんの、馬鹿」

小さな声で何度もくりかえされる苦言。それは烏丸の声に隠れ、他の生徒には聞こえない。二人でこれまで生きてきたのに。母が事故で死んでから、父の実家がある京都でしばらく住んでいた時も、あの時の言葉が今でも思い出せるのに。なぜ、遠い存在になったのだろうか。自分を見てくれない気がして虚しく思う

　　――お前しか、いなくなっちまったな

あの時の秀明の弱々しい声は、まだ乳飲み子だった時であろうと覚えている。
秀明の弱さを初めてみた瞬間。そして、秀明は二人で生きて行こうと誓ってくれた。
なのに……。

「花宮！」

「は、はい！」

思考を遮断させるように、烏丸の声が耳に突き刺さった。
あまりにも突然であったために、声が裏返ってしまった。くすくすと笑うクラスメイト。
羞恥で陽の耳が紅くなっていく。烏丸は大きく呆れた。

「立たなくていい。教科書の５７ページ、音読しろ」

「は、はい」

今度は顔を真っ赤に染めて席へ座り直した。