彼はケージと餌を部屋に運び入れると、早速組み立て始めた。

私はウサギを床に離して、コーヒーを淹れた。
今度はなんとか適量を淹れることが出来た。
ウサギはクンクンと匂いを嗅ぎながら、部屋をうろうろした。

「いなかったらどうしようかと思った」

彼は楽しそうに話始める。

「起きてすぐペットショップに行ったんだ」

「そうなの」

相づちを打つのがやっとだ。
昨日だけの関係だと思っていたのに。
本音を言えば、すごく嬉しい。
でも、彼には妻がいる。

「近所だって言ってたからさ、すぐ見つかったよ」

彼はウサギを抱き上げると、そっとケージに入れた。

「ここが新しいおうちだよ」

ウサギは落ち着かないらしくまたうろうろしている。

「良かったね」

ウサギの頭を撫でるとやわらかかった。
幸せな感じがした。

「お疲れ様」

彼にマグカップを渡す。
彼はまだ話続けている。

「その子もすぐ見つけられたよ」

「本当に?」

「ずば抜けて可愛かったから」

そう言うと、彼はまた私を抱き締めた。
そしてそのまま黙ってしまった。
私はどうしていいかわからずにまた困ってしまう。

「迷惑だった?」

彼は小さな声で言った。

「そんなことない、すごく嬉しいわ」

私は必死になって彼に言った。
確かに私が欲しかったウサギだとか実物はもっと可愛いとか。
彼はゆっくり顔を上げた。
悲しいような困ったような顔をしている。

「昨日ああなる予定じゃなかったからどうしたらいいか考えた」

「どういうこと?」

「軽い気持ちじゃなかったから」

私は耳を疑った。

「でも、貴方は…」

「まどかが好きだ」

自然と涙がこぼれ落ちていた。
身体中に鳥肌が立った。

もう天国には絶対に行けない。


それでも構わない。