彼は戸惑いながらも部屋に上がった。

リビングのソファに座って居心地悪そうに煙草を吸っている。
部屋に上がってからもう2本目。
とりあえず私はコーヒーを淹れてみる。
コーヒーでも飲んで行ってとベタなことを言ってしまった。

ぼーっとしていたらとんでもなく沢山出来た。
マグカップを渡すと、彼はありがとうと言って一口飲んだ。
私は自分のマグカップを持ったまま突っ立っていた。
うちには2シーターのソファ一つしかない。
何処にいたらいいかわからないのだ。

「隣に座ったら?」

「えっ?」

「落ち着かないでしょ?」

「はい」

出来るだけくっつかないように座った。
自分で誘っておいて何をしてるんだろう。
何がしたいのかもうわからない。

「テレビでも見ますか?」

返事も聞かずにつけて、チャンネルを適当に回す。
スポーツニュースしかやってない。

「あっ今日ゴルフあったんだ」

液晶画面に流行りのアマチュアゴルファーが映る。
ついニュースに聞き入ってしまった。

「最終日だったんだな」

彼も画面を見つめる。
アマチュアゴルファーはバンカーからのショットを見事にカップインした。
迷いの無い綺麗なスイング。
逆転優勝だ。

「すごい!」

二人で思わず顔を見合わせる。

「あんなショット打てたらなぁ」

「吸い込まれたみたいね」

「やっと笑ったね」

次の瞬間、私の心臓は何秒か止まったと思う。

彼の唇は煙草とコーヒーの味かした。
私のも似たようなものだったはずだ。

今を少しも見逃したくないと思った。


今だけ、今だけでいいから。