マンションの前で部屋が明かるいのに気付いた。

慌てて部屋に入ると彼とぴーちゃんが遊んでいた。

「おかえり」

「どうしたの?」

「仕事だって言って出てきた」

彼の首に腕を回して抱きつく。
温かくて泣きそうになる。

「迎えに行けばよかったね」

「いいよ」

「ゆっくりしてくるかと思ったから」

「部屋にいてくれるほうが嬉しい」

彼の唇も温かかった。
いつもと同じで少し煙草の匂いがする。

「まどか外の匂いがするよ」

「本当?どんな匂い?」

彼は私の首筋をわざとらしくクンクンと嗅ぐ。

「冬と夜が半々かなぁ」

「蓮の花の匂いはしない?」

彼は眉をしかめて少し考えるふりをする。

「蓮根でも食べたの?」

彼なりのユーモアなのだろう。
私はなんだか楽しくなってクスクス笑う。

「楽しかった?」

「とっても」

嘘を吐いた。
栞に会えたのは嬉しかった。
でも、楽しく出来なかったのは私だ。
栞も彼も悪くないのに。

「無事に帰って来てくれて良かった」

彼は大袈裟な仕草で私を抱き締めた。

「子供じゃないんだから」

「だってお外は危ないもん」

「本当に子供みたい」

お外は危ない。
突然現実を突き付けられてしまう。
でも、お外に出ずにはいられない。


ここは少し居心地が良過ぎて困る。