康介のアパートは扉をあけると、玄関からすでに油と絵の具が混じった匂いが漂っていた。

それは奥に進むごとに強くなる。


リビングには足の踏み場もないくらいに、スケッチブックや絵の具のチューブに筆、それから何枚もの絵が散乱していた。

そのすさまじい光景に唖然と立ち尽くしていると康介はあたしをひとつの部屋にとおした。


そこはリビングより酷いありさまで、より強く油と絵の具の入り交じった匂いがした。


床に散乱した絵は、老夫婦の絵や、バスケットにはいった果物の絵、花の絵、海の絵、それから訳の分からない抽象的なものまで様々だった。


どれも暖かみで溢れている、優しさが詰まっている。

絵の上手い下手なんかはわからないド素人のあたしでも、感じられるくらいに康介の絵は人情に包まれているんだと思う。


きっとそれは康介が暖かな人間だから。

じゃないとこんな絵、絶対に描けない。