チラ…


何とかしてこの場を逃げ出そうにも、すっかり立ち上がるタイミングを逃してしまったわたしは、


先に翔が席を立ってくれるんじゃないかと期待して、チラリと隣に視線を向ける。


だけど翔は帰ろうとするどころか、椅子に浅く座り込んだままアイポッドを聴き、ケータイをいじりだしていた。


♪~♪


翔のイヤホンから洩れて聴こえてくる、アイポッドの音色。


隣の席にいるわたしの事なんて、全然眼中にないみたい…。


「……」


わたしは自己紹介の紙を必死に書いているフリをして、
隣でカチカチとケータイをいじっている翔の顔を盗み見た。


相変わらず翔の視線は、ケータイのディスプレイへと向けられてる。


あぁ、やっぱりその横顔は、翔だ。


人違いかもって何度も考えたけど

それでもやっぱり、今わたしのすぐ真横に座っているのは間違いなく…幼なじみの翔だと思った。


わたしと同じ高校、翔も受験してたんだ。

知らなかった…――。


中学の卒業式までは真っ黒だった髪が、今はキレイなキャラメル色に染められていて、


真新しいブレザーの制服さえ、難なく着崩し
サマになっていた翔は

一瞬、誰だか分からなかったくらい、知らない人に見えた。