「へぇ、マグカップ?」
「!」
「…おまえさ、こんなん欲しいの?」
どこか呆れたようにそう言って、わたしのすぐ真後ろに立っていたのは
取り上げたピンクのマグカップ片手に、何やらいぶかしげな目でこっちを覗き込む翔。
このとき不意にお互いの顔がグンと近づきそうになって、わたしは思わずパッと下を向いた。
「…あ、うっ、うん!い、いちおう記念とかになるかなぁって」
「ふーん…」
ドキン、ドキン…
び、びっくりした…;
変に意識してしまうせいで
なんだか会話もぎこちない。
この時さりげなく気を利かせてくれたのか
さっきまで一緒にいたはずのあさみちゃん達は、いつの間にか他の売り場へと移動していて
「ねぇどれにするー?」
「このお菓子おいしそ~!」
「……」
今も周りは他の修学旅行生たちの笑いでにぎわう中
なぜか二人無言で向き合ったまま…
しばらくして目の前にいた翔が突然、大きく咳ばらいをしてみせたかと思うと、ボソッとこう呟いた。
「…買ってやるよ」