「…――」

「今さらこんなこと言うなんてすごく都合いいし、もう遅いかもしれないけど…。
やっと気づいたんだ。わたしは翔のことが好きだって…。
でもこんな気持ち、自分じゃどうしたらいいのか分かんなくて、もしほんとの事言ったらきっとまた色々傷つくんじゃないかって…。
だからそれで皆がいる目の前でその、あんなヒドイ言い方…――」



“だからわたしは翔のこと、別に何とも思ってない”



自分の意志とは全く正反対の…


思ってもいない言葉をとっさに口走ってしまったことで

結局、もっとお互いを傷つけ合う形となってしまった。


とっさに自分の身を守るためにとったはずの行動は
当然相手を傷つけ、結果…自分自身をも傷つけた。


…でも、それがあったから

そのことがあったから、

わたしは逆に
今まで見もしなかった自分の心の奥底にもやっと目を向けるキッカケが出来て

そこでようやく気づくことができたんだ。



“加奈子なんか好きじゃねーし”



わたしにとって、大の苦手で大キライだと思いこんで止まなかったはずのその人は、

本当はすごく大切で、そしてとても――大好きな人だったんだって。



「昨日の夜、せっかく翔が初めて真剣に自分の気持ち伝えようとしてくれたのに、
わたしはわざと逃げたり、ごまかそうとして。
今までずっと素直じゃないことばかり口にして、その度に翔のことを傷つけてきてしまってほんとにごめんなさい…」

「……」

「…ひっく」



拭っても拭っても、目からあふれ出る涙が止まらない。



そのまま一人、ひたすら頭をさげて涙をこぼしていると


向こうでわたしの告白を聞いたきり、ジッとそこで立ち止まっていた翔が

ふいにこっちの方へ歩み出したかと思うと、腕を伸ばし、そのままギュッ…とわたしを力強く抱き寄せてきた。