「……」


え…―――



「…おっと、もうそんな時間?すっかり忘れてたわ
って…ちょっと。
まさかね?アナタ達?
ただそれだけをあたしに催促するために
わざわざ二人してここへ来たって言うんじゃないでしょうね?」

「そのまさかっすけど?
でなきゃ修旅まで来てアンタの顔、わざわざ拝みたくねっすよ」


何気なく聞かされたその発言に、思わずわたしの動きがピタ…と止まったものの

後ろにいる翔本人は特に気にする様子もなく、

それどころか目の前の春野先生へ、わざと食ってかかるようなことを口にする。


するとそれが更に春野先生の逆鱗(げきりん)に触れたのか、

ピキピキと微笑みながらも、
手には持っていたタバコをめいっぱい、目下の灰皿にガン!と押さえつけ握り潰したかと思うと
一人何やらフン…と含み笑いした。


「ふぅん…“アンタ”か。
…ったく。人の忠告勝手に無視しといて
一体どのツラ下げて会いに来るかと思えば…とんだ期待ハズレだったわ」

「……」

「けどまぁそれでも…
あの頃に比べれば、少しは自分の身のほどを知る自覚が出てきたみたいだけど?」


一人ブツブツと、ワケの分からない単語をつぶやきながら
先生は、ソファにかけておいた上着を手に取る。


そしてそのまま颯爽(さっそう)と後ろの背中へと回し着込んだかと思うと、
再び新しいタバコを口にくわえこんだ。



「ったく…しゃーない。
メンドいけど行ってやるか。
あと、そこにいるアンタたち二人も用が済んだんなら、とっとと来ること!いい?わかった?!」



バタン!



カツカツカツ…




言うだけ言って、こっちをビシイッ!と鋭く指差してみせたかと思うと

あっさりわたしたち二人を中へ取り残したまま

春野先生は、部屋を出ていってしまった。